日本の少数民族ウィルタについて②
8月28日に書いたことにいくつか追加しておきます。
①小説家深田久弥の作品に『オロッコの娘』という短編小説があって、ウィルタの娘とニヴフの若者との淡い恋を描いたものらしい。
ただ、この作品の発表当時深田久弥と同棲していた北畠八穂が後に本当の作者は自分だと語っていて、それは事実らしい。
②北海道のオホーツク海沿岸地方にはモヨロ貝塚などの遺跡を残した考古学ではオホーツク人と呼ばれる非アイヌ人がかつて住んでいたことが知られている。
オホーツク人はアイヌのユカル(ユーカラ)に『レプンクル』の名で出て来る民族と同一と考えられるが、アイヌは長い困難な戦いの末にレプンクルに勝利したと伝えている。
オホーツク人の正体については今なお多様な説があるが、近年はオホーツク人は樺太からやって来たニヴフとの見方が有力になっている。
③『ウィルタ』『ニヴフ』は共にそれぞれの言語で人間を意味する言葉だが、『ニヴフ』を『ニヴヒ』と書いているものもある。『ニヴヒ』が単数『ニヴフ』は複数という説もあるが、『ニヴフ』と同じ意味で『ニヴヒ』を使う人もいる。
また『ニヴフ』は沿海州辺りでの言い方で、南樺太では『ニクブン』と言っていたようだ。「ゲンダーヌ」でも終始『ニクブン』と書かれている。
④言語学ではウィルタ語はアルタイ諸語のトゥングース系に属し、ニヴフ語は古アジア諸語に属する。
アルタイ諸語は(1)モンゴル系(2)チュルク系(3)トゥングース系に分けられるが、(1)モンゴル系に属するのはモンゴル語・ブリヤート語・カルムイク語(2)チュルク系に属するのはトルコ語・アゼルバイジャン語・ウイグル語・クリミアタタール語等、そして(3)トゥングース系に属するのはエヴェンキ語(旧トゥングース語)・満州語(女真語)・エヴェン語・ナナイ語・ウデへ語・オロチョン語・ウィルタ語・シボ語等だが、日本語・朝鮮語も文法構造の類似等からアルタイ諸語トゥングース系に分類される事が多い。
ただ文法構造や発音体系の類似にもかかわらず、基礎語彙に対応する語彙が少ないことから、日本語・朝鮮語は純粋のトゥングース系言語ではなく南方系との混合言語と見られる。
日本語の場合、基礎語彙にはクメール語やマレー語との類似が認められる。
ニヴフ語が属する古アジア諸語とは、アルタイ諸語の場合とは異なり、共通性の高い言語グループに対する呼び名ではなく、北東アジアの言語の中で言語系統が不明な言語を取り敢えずまとめて古アジア諸語と呼んでいるに過ぎないので、同じ古アジア諸語だから同系統の言語という訳ではない。
古アジア諸語に属する言語としてはチュクチ語・コリヤーク語・イテリメン語(カムチャダール語)・ユカギール語・ケット語・ニヴフ語・アイヌ語・クリル語・エスキモー〜アリュート語等。
このうちチュクチ語・コリヤーク語・イテリメン語は相互に近縁関係にあることが判っている。
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